薬品の化学

□医薬品

■対症療法薬
・病気を直接治すのではなく症状を緩和するはたらきをする薬。

T.解熱鎮痛剤
@アセチルサリチル酸(商品名:アスピリン)
・サリチル酸の副作用を改善するためにてつくられた。
・現在でも風邪薬やリウマチの薬として世界中で服用されている。
・プロスタグランジン(発熱や痛みの原因物質)の合成を阻害。
Aアセトアニリド
・1853年に合成。血球を破壊するなどの強い副作用。1971年以降は使用中止。
Bρ-アセトアミドフェノール(アセトアミノフェン)
・アセトアニリドの研究の中で発見。
・強い鎮痛作用を持ち,副作用も少ない物質。
Cフェナチセン
・ρ-アセトアミドフェノールのヒドロキシ基がエチルエーテル化した構造。
・長期服用されてきたが,副作用の恐れがあり現在は供給中止。

U.消炎鎮痛剤
@サリチル酸メチル(商品名:サロメチール)
・サリチル酸から合成できるほか,強い芳香をもつ液体で,植物香油から抽出できる。
・皮膚から吸収されやすく,筋肉痛などに外用塗布剤として用いられる。

■化学療法薬
・病原体(菌)に直接作用し,死滅させることによって病気を治療する薬。
T.サルバルサン
・1910年,エールリッヒ(ドイツ)と秦(日本)が,サルバルサンが梅毒スピロヘータに有効であることを発見した。
・サルバルサンは最初の化学療法薬。適用範囲が狭く副作用が強い。
☆サルファ剤はスルファニルアミドの骨格をもつ化学療法剤の総称)。

Uサルファ剤
@スルファニルアミド
・1935年ドーマク(ドイツ)は,赤色染料のプロントジル(商品名)が抗菌作用を持つことを発見。その後,プロントジルが体内で分解されてできるスルファニルアミドが有効成分であることがわかった。
・葉酸の合成を阻害。

V.抗生物質
@ペニシリン
・1929年,フレミング(イギリス)が青カビの中から,世界最初の抗生物質であるペニシリンを発見。細菌の細胞壁の合成を阻害。
・ペニシリンは現在は化学的に合成されている。
Aストレプトマイシン
・ペプチドの合成を阻害する物質で最初の結核治療薬として使われた抗生物質。
・土壌中の放線菌から発見。細菌のタンパク質の合成過程を阻害。

■抗生物質
・微生物によって生産される抗菌物質。
・抗生物質を用いるとこれに抵抗する菌である耐性菌が出現することがある。

■抗菌物質
・細菌を殺したり,成長を止める物質を「抗菌物質]という。
・微生物が生産する抗菌物質を特に「抗生物質」という。

■選択毒性
・コレラや結核など,人体に侵入した病原体に対して毒性を示し,人体には毒性を示さないことを「選択毒性]という。

■化学療法
・選択毒性を持つ化学物質による病気の治療法を「化学療法」という。

■薬理作用
・医薬品が体内で与える作用を「薬理作用]という。
・医薬品の分子は,一般に細胞表面に存在する「受容体」に結合し,薬理作用を示す。
・受容体に結合するときには,イオン結合や水素結合,ファンデルワールスカなどで結合する。

■副作用
・医薬品が本来の薬理作用以外に,人体に対して起こす望ましくない作用を「副作用」という。

■胃薬
・胃液は塩酸を含み強酸性であるため,胃に潰瘍ができるとさらに悪化させてしまう。よって,胃液を中和する弱塩基性の物質が胃薬として用いられる。
・最も一般的な物質は炭酸水素ナトリウム(NaHC03)。また,酸化マグネシウム(MgO)なども用いられる。
※実際には,胃液を中和する薬の他に,「胃粘膜を保護する薬」や「胃液の分泌を抑える薬」も含まれる。

□肥料

■肥料とは?
・一般に植物の生育を促すために土壌に加える物質を肥料という。

■肥料の分類
・肥料には,生産手段,化学的組成,肥料の作用,含まれている成分,形状などによってさまざなに分類される。
☆肥料はいろいろな分類法を整理して覚えることがポイント!

■生産手段による分類
@天然肥料
・自然界にある動植物の遺骸や排泄物などを利用した肥料。
例:チリ硝石,草木の灰,骨粉,厩肥,油かすなど。
A化学肥料
・化学的に合成した肥料。
例:硝安(硝酸アンモニウム),重過リン酸石灰,硫安(硫酸アンモニウム),過リン酸石灰,溶性リン肥.尿素など。

■化学肥料に対する天然肥料の特徴
@肥料の三要素をすべて含みさらに微量元素も含んでいる。
A肥料の効果が現れるのが遅く,効果に持続性がある。
B微生物を含むので,土壌の改良にも有効である。

■化学的組成による分類
@有機質肥料
・有機化合物からなる肥料。
例:
(@)天然肥料……たい肥,油かす,魚粉,動物の排泄物。
(A)化学肥料……尿素。

A無機質肥料
・無機化合物からなる肥料。
(@)天然肥料……草木の灰,チリ硝石(NaNO3)。
(A)化学肥料……硫安(硫酸アンモニウム),塩安(塩化カルシウム),過リン酸石灰,塩化カリウム,石灰窒素など。

■作用による分類
@直接肥料
・植物に直接吸収されて,植物の生育に直接的に作用する物質。
例:硫安(硫酸アンモニウム)や塩安(塩化アンモニウム)など,
A間接肥料
・土壌を改良することにより,間接的に植物の生育を良くする物質。
・土壌の酸性を中和するために用いる。
例:生石灰(CaO),消石灰(Ca(OH)2),炭酸カルシウム(CaCO3)などの石灰質肥料。

■製造方法による分類
@単肥……1種類のみ合む。
A複合肥料……2種類以上合む⇒「複合肥料」(=配合肥料(2種類以上の肥料を機械的に混合)+化成肥料(化学的操作によって製造され2成分以上を含む)。

■肥料の化学的反応と生理的反応
@化学的反応……肥料を水に溶かしたときにその水溶液が示す反応。
A生理学的反応……肥料を土壌に施して植物が肥料成分を吸収したのちに土壌が示す反応。

■植物の必須元素
・植物の一生に必要不可欠で,他の元素ではだいようできない元素を植物の必須元素という。
・必須元素は16種類。
・比較的割合の高い元素が9種類(炭素,酸素,水素,窒素,カリウム,カルシウム,マグネシウム,リン,硫黄),極めて微量の元素が7種類(塩素,鉄,マンガン,亜鉛,ホウ素,銅,モリブデン)。
・植物は炭素,水素,酸素を空気と水から得ている。その他の元素は様々な無機化合物のかたちで土壌から栄養分として吸収している。

■必須元素の役割
@植物の細胞を構成する元素;C,H,Oは細胞壁を形成。N,Sはタンパク質を形成。Pは,核酸やATPの合成に必須。
A浸透圧に関する元素;NaやKは,細胞の浸透圧を保ったり,pHの調節に必要。
Bその他の元素;Mgはクロロフィルの構成成分。その他の元素も呼吸や光合成,細胞分裂といったさまざまな生命活動に関与している。

■肥料の三要素
・必須元素のうち,窒素N,リンP,カリウムKは土壌から失われやすく,肥料として特に補給する必要がある。これらを「肥料の三要素」という。また,それぞれの元素を含む肥料を「窒素肥料」「リン酸肥料]「カリ肥料」という。

■最小(養分)律
・植物の生育は,必要元素のうち最も不足しているものに左右される。これをリービッヒの最小(養分)律という。

□窒素サイクル

■窒素サイクル
・窒素は単体の窒素ガスとして大気中に多量に存在するが,生物にも存在し,循環している。窒素の循環を「窒素サイクル」という。

■窒素固定
・大気中の窒素ガスは化学的にかなり安定で反応しにくいが,工業的な方法,または一部の生物により,化合物として取り込まれる。これを「窒素固定]という。
@工業的窒素固定
・工業的には,ハーバー・ボッシュ法により鉄を触媒として,窒素と水素からアンモニアを合成する。
A生物的窒素固定
・根粒菌(マメ科の植物の根に侵入して根粒を作る)などの窒素固定細菌によって,空気中の窒素をアンモニウムイオンに変化させる。

■窒素肥料の製造
・ハーバー・ボッシュ法によって合成されたアンモニアから,硫酸や塩酸を作用させて硫安や塩安が製造される。また,二酸化炭素を作用させて尿素が合成される。
・カルシウムカーバイドに窒素を加えて加熱すると,石灰窒素(カルシウムシアナミド)が生成する。

■硝化
・土壌中のアンモニウムイオンは,亜硝酸細菌によって酸化され,亜硝酸イオンに変化する。さらに亜硝酸イオンは硝酸細菌によって酸化され,硝酸イオンに変化する。この一連の過程を「硝化」という。
・アンモニウムイオンと硝酸イオンは植物の根から吸収される。

■脱窒素
・植物の根から吸収されたアンモニウムイオンや硝酸イオンはアミノ酸などの原料となり,窒素は,植物を食べた動物中に入っていく。
・植物や動物が死ぬと土壌中の微生物によって分解されてアンモニウムイオンになる。土壌中の硝酸イオンは脱窒素細菌によって窒素ガス(N2)に変化し,空気中に放出される。この過程を「脱窒素」という。